2012年05月25日
葉月プラナスの会第27回勉強会「原発事故から何を学ぶべきか」を拝聴して(2)
葉月プラナスの会第27回勉強会「原発事故から何を学ぶべきか」を拝聴して(2)
福島原発事故は、235Uの核分裂により、131I、137Cs、134Cs、90Srの核種で環境汚染されたが、現在は原子炉、使用済み燃料プールは冷温停止状態にあり、安全冷却維持のStepⅡの状態にあるとのこと。環境中に放出された放射性ヨード(131I)は、放出放射線β線とγ線で半減期は8日であることから、事故直後は大量に放出されたであろうが、現在は漏出がなければ問題がない。一方、放射性セシウム(137Cs、134Cs)は、放出放射線がβ線とγ線で、半減期が長く、特に137Csは半減するのに30年を要する。従って、当該放射性物質が現時点の対策対象となる。β線を放出する90Srは半減期が29年、セシウムとほぼ同じであるが、飛散量は少ないと考えられている。ただ、β線の検出が困難であるということは、正確な測定ができていないということ記憶しておく必要がある。
1986年4月25日にソ連(現在のロシア)のチェルノブイリ原発で起きた事故は、福島原発と異なり、原子炉が臨界状態にあり、水蒸気爆発で大量の核種が飛散した。現在は石棺状態下にあるが、2006年のドイツ放射線防護委員会の報告では、事故後20年時点で、固形がんや白血病の罹患率や死亡率の増大は確認されていないとのこと。但し、0-18歳の青少年のうち4590名が甲状腺がんを発病、そのうちの40%が被爆によると報告している。が、1988年から1996年にスウェーデン北部で取り組まれたチェルノブイル原発事故後の疫学調査(マーチン・トンデル)結果は、極めて低い汚染地域(土壌汚染 100kBq/m2、年間被爆量換算3.4mSv )であったが、11%のがん罹患率の上昇を認め、欧州放射線リスク委員会(ECRR)はチェルノブイリ事故でも明かに人的被害があったと報じている。この調査報告のもう一つの意味は、低線量被爆でも長期間暴露されると発がんすると言うことである。
環境汚染は健康被害と共に風評被害を生み、福島県民を苦しめている。
国の食品安全委員会は、廣島長崎の疫学調査から、生涯累積線量100mSv 以上で健康被害が出ると判断し、どの組織にも臨床的に有意な機能障害を示さない値として、放射性Cs の摂取限度値を1mSv/年として、各食品へ割り振った。代表的規制値は表に示すが、これらの値は、規制値であって、安全と危険の境界値(閾値)ではない。放射線の人への影響に関しては、閾値がないという見方が、ICRPの立脚点である。つまり、低線量において「人的被害の発症をもたらす値」は明示できないということ。Code委員会では、1995年に137Cs 1000Bq/kg をベースにして、成人1年間に1mSvを上限規制値としている。
汚染対策としては、体内へ取り込まれた核種を劇的に取り除く方法はないが、Csなどは身体を動かし早く排出し、CsをKへ置き換えることや、KやCaの多い、大豆、海草、緑黄野菜や果物を取ることなどを提案している。また、環境対策としては、雨どいや側溝などを除染し、土壌は、田起し、畑起し、K肥料の散布などを行う。山林浄化は枝打ちや地表削除が必要であると記している。
放射線の人体への影響は、結局はがんの発症であるが、上記に述べた基準値下においての、がん原因因子と発がん相対リスクは、喫煙や飲酒などより低いとの見方も示した。
以上、森田氏はICRPの勧告を背景に、放射線による人体への影響を懸念する様々な問題を考察したが、低線量のがん発症への閾値が得られていないことから、放射能汚染の危険値、安全値は現存せず、算定された基準値から概観すると、がん発症のリスクは極めて低いと言うことになる。しかし、この認識は、がん発症の危険性がないと断言していることではないことも、我々は理解すべきである。
2012年05月03日
葉月プラナスの会第27回勉強会「原発事故から何を学ぶべきか」を拝聴して(1)
葉月プラナスの会第27回勉強会「原発事故から何を学ぶべきか」を拝聴して(1)
3月16日(金)17:30より、医仁会武田総合病院で院内研修会が催され、院長の森田陸司医師が「放射線の人体への影響」について、講演した。院内で院長の講演と言う事もあったが、医師・看護師・事務職員も加わり、5~60人が出席、関心の大きさが伺えたと佐藤理事長はいう。理事長は、本研修会は職員対象であったが、特別に許可されて、聴講させてもらったとのこと。この研修会の講演を聴き、今回の葉月プラナスの会(4月25日)の勉強会で講演を依頼したそうである。
講演のサブタイトルは「福島第一原発事故 混乱した情報にどう対処すべきか」から「原発事故から何を学ぶべきか」に変更されていたが、時節の理解にも大いに役立つテーマとなった。
森田医師は先ず、「現状は最悪な緊急事態からほぼ脱したが、生活の広範囲に及ぶ影響はますます深刻なものになりつつある」と述べ、「住民は、学者、報道機関の説明の混乱から、何を信じて良いか判らないという、不信・不安な状況にある」と報告した。そして、その原因は「行政・専門機関の統一された情報提供の不足だ」と断じて、本題に入った。
最初に、いくつかの放射線領域における用語の解説があり、種々の線量とその差異の説明があった。特に、日常的に使われてきたシーベルト(Sv)と金額の対比は、被ばく線量の大きさと人体・生活への影響の大きさと相関し、興味深かった(表参照)。また、自然環境からの放射線被爆量は、平均2.4mSv/年 (日本 1.5mSv/年)といわれており、インドやイラン、ブラジル、中国はこの10倍を越す線量下にある。食品安全委員会による食品規制値(137Cs + 134Cs)上限1mSv の差異は、自然放射線量の地域差の範囲内に納まるとのこと。食物中の天然放射性物質40Kも、数字的に見れば結構高いもの(例えば、椎茸 700Bq/kg、乾し昆布 2,000Bq/kg)があるが一般的には知られていない。これらの自然放射線量から考えると、五山お送り火の護摩木の放射線量(約1130Bq/kg)は、一体何だったのだろうか。
人体への影響で、廣島長崎の12万人の被爆調査から得た結果にお
いて、理解すべきは確定的影響と確率的影響の相違とのこと。前者、確定的影響では500mSvを閾値とした高濃度放射線量領域で、これ以上では線量依存的に影響が重症化する。急性影響として、白血病、下痢下血、死等があり、晩発
生影響として白内障などが発症する。一方、100mSv以下の確率的影響は、数年から数十年後に発症するかも知れない影響(遺伝的影響や白血病、がんなどが考えられている)については閾値はないらしい。現時点で、遺伝的影響は検出されていないとのこと。
今回の話で、放射線の環境汚染と人体への影響について、記憶に残さねばならないものは、国際放射線防護委員会(ICRP)の考え方とその勧告である。森田氏の話では、ICRPの放射線防護の考え方ならびに勧告は、WHOやILOなどと同様に国際的な規範となっているとのこと。この委員会が、福島原発事故に関し、以下のような考え方を示した。前提は、「(確定的影響のでる環境下ではないが)確率的影響には閾値はないとする直線モデルの立場」に立脚して、「今回のような緊急事態に対する場合には、一方の基準の設定に
よって防止できる被害と、他方でそのことによって生じる他の不利益(例えば、大量避難による不利益や、その過程で生ずる心身の健康被害など)の両者を勘案して、リスクの総和を最も小さくなるように、最適化した防護の基準を作る、さらに緊急時には単に低くすることではなく、種々な要因(経済的、社会的要因)を考慮して、合理的に達成できる範囲で被爆線量を低く保つ」こと。その上で、ICRPは日本への勧告として、「非常事態(緊急時被爆状況:高い線量を避け難い状況)下での目安線量として、一般公衆には、年間20~100mSvを基準とし、回復・復旧の時期(現存被爆状況:原発からの放射性物質の漏出がとまったのちに、放射能の残存する状況)において「住民がその土地で暮らしていくための目安として、年間1~20mSvの間を設定し、防護の最適化を実施すること、さらに、これを年間1mSvに近づけていくこと」を発表した。現状は、この勧告に基づいて進行している。(図表は、森田氏のスライドより、つづく)
2012年04月07日
がん対策推進基本計画見直し案に対するコメント
中堂寺一平のここが知りたい(95)
がん対策推進基本計画見直し案に対するコメント
3月2日に発表されたがん対策推進基本計画変更(見直し)案は、現行計画施行(平成19年6月)後5年間の歩みを土台に、恐らく、熾烈な議論のうちに書かれたものと思う。それは、文章に、意見の羅列感が残っており、言葉の重複等が散見されることからも読み取れる。しかし、一国民として、かつ、がん対策基本法と現行がん対策推進基本計画と共に歩んできた者としてじっくりと感慨深く読ませてもらった。
見直し案は、全体として、5年間の実績を背景に一段進歩している。内容的にも、小児がんやサバイバー就労の問題、さらにはがんの教育、普及啓発などが新たな課題として計画に加わり、多面的になった。しかし、変更された計画は各論的、積み重ね的様相が濃く、20年、30年先のがん医療のあり方が見えない。今般の東日本大震災と原発事故は、従来のような視点や議論の仕方ではなく、長いスパンの計画を立て、医療をベースにした都市のあり方の必要性を問うているのではないかと考える。その視点が加味されていないように思われる。従って以下のコメントを、震災後の現状と将来を見つめる視点から記してみた。
1日本の地理的条件:日本の国土が、地球4プレートの上に位置しており、地震と津波の災害をいつ受けても不思議はないという認識を前提に都市計画と医療体制を考える。
2原子力発電所の国内配置と医療対策:日本は54基の原発基地に囲まれ、その事故による放射物質の飛散による、環境ならびに人体への影響を常に考慮すべきと考える。最終的には、発がんの危険性である。特に、使用済み核燃料の処分方法が確立されない限り、国民の不安は拭いきれない。その将来的医療対応策は、見直し案に明記すべきと考える。
3がん対策基本法の理念の徹底:現行計画は、計画と言うよりも、先ずはあたりをつける項目の列挙であった。その項目の実効が本見直し案へ反映され、真の「がん対策推進基本計画」になると考える。まず、第1 の基本方針第1項に明示されている、「がん対策基本法の理念:がん患者を含めた国民が、がん対策の中心である」と言う視点から見ると、行政、医療者に、その理念が十分徹底しているとは思えない。各都道府県の推進協議会のメンバー構成、会議の開き方、討議の在り様を検証すべきである。患者家族の立場から見ると、会議の準備からして不十分であり、分厚い資料が当日配布され、2時間程度ですべてを議論させられている。議題の選定も、行政が独断で決めている。参加患者会の選定も、行政の偏見で行っている。医療者と患者のバランスが悪い。
4検証体制の確立:本格的な基本計画立案と実行が、これから始まると考え、推進協議会のレベルアップを図り、各計画の検証体制を確立し、調査・指導権限の拡大をも明示すべきかと思う。
5チーム医療の名実共に向上を図る:重点課題をはじめ計画書全体に記載されたチーム医療、集学的治療、緩和ケアチーム、放射線治療チーム、化学療法チーム等々の医療チームの構築は、患者にとっても医療者にとっても有難い表現であるが、数の寄せ集めではなく、意識の共有を明示する。
6地域医療のグランドデザインの立案:都道府県、二次医療圏の拠点病院や各都道府県独自の指定病院が林立し、かかりつけ医や介護施設、ホスピス等も整備されているとあるが、チーム医療を背景にした地域医療 地域完結型の医療体制の確立の手立てとビジョンが見えない。地域医療のグランドデザインが必要である。
7トータルケアとがん医療包括支援センター(仮称)の創設:全体目標において、がん患者、家族は「社会とのつながりを失うことの不安や仕事と治療の両立が難しい」と言う状況にあるとの認識を示し、第3項に「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が追加された。この項は、評価できる。また、緩和ケア領域で用いられていたトータルペインが、患者、家族(遺族)のトータルケアに発展拡大したことも評価したい。これを実行するには、それらを受け止める機関、施設が必要である。そのための施設(がん医療包括支援センター仮称)を、各都道府県に1箇所作るべきと思う。
8ワンストップも相談窓口を:相談窓口は、ワンストップで対応できる人材をはじめ設備の完備も必要と思う。
9医療資源としての患者会活動の財政的支援:がん患者家族(遺族)を社会資源と捉えると同時に、がん患者会、がん患者サロン活動が対応している精神腫瘍学的領域を、医療活動ならびに医療行政の中に組み込み、財政的支援をすべきと思う。
10緊急重点課題として:東日本大震災の復興事業への強力な支援として、原発被災地に隣接した福島県相双地区は、がん医療の過疎地域だったこともあり、新規拠点病院(原発事故記念がんセンター)の構築とそれに関係した医療専門技師養成(放射線技師、医学物理士、画像診断士、臨床検査技師、口腔衛生士等々)大学を創設し、人口減少の問題、雇用の問題の解決に寄与する条項を付記していただきたい。